高分化型(小細胞性)リンパ腫

消化管型の高分化型(小細胞性)リンパ腫は、リンパ球形質細胞性腸炎(IBD)とほぼ同じ症状を示す病気であるため、リンパ球形質細胞性腸炎(IBD)との識別が非常に難しい疾患です。
進行が遅いガンのため、リンパ球形質細胞性腸炎(IBD)だと思っていたら高分化型(小細胞性)リンパ腫だった、もしくはリンパ球形質細胞性腸炎(IBD)から高分化型(小細胞性)リンパ腫へ移行していたということも起こりうる疾患です。また、近年増加傾向にあるとのことです。(以前より正確な診断ができるようになっただけなのかもしれませんが・・・)

進行が遅いとはいえガンですし、治療を間違えば確実に予後が悪くなってしまいます。
リンパ種についても知識をもっていれば、早めの対応ができるかもしれませんので、参考にしていただければと思います。

 

リンパ種

リンパ球がガン化しいずれかの臓器において増殖したことにより起こる悪性腫瘍疾患リンパ腫といいます。

リンパ球は外敵(ウィルスや細菌など)から身体を守るために、血液中・リンパ液中・細胞内・細胞間と、全身で働いているものなので、リンパ種は身体のどの部分でも起こりうる疾患です。

消化管型リンパ腫の分類

消化管型リンパ種は、消化管粘膜にガン化したリンパ球が増殖浸潤して起こる悪性腫瘍疾患です。
リンパ種は身体の全ての場所でおこる可能性があるガンですが、このうち消化管型は5~7%といわれています。

消化管型リンパ腫には低分化型(大細胞性)リンパ腫高分化型(小細胞性)リンパ腫があり、またそれぞれがT細胞型B細胞型に分類されます。

とてもややこしいことに、分類とは別に呼び名も複数あるようで、これまた私たち素人が「?」となってしまう要因です・・・。

 高分化型リンパ腫 = 小細胞性リンパ腫 = 低グレードリンパ種 
 低分化型リンパ腫 = 大細胞性リンパ腫 = 高グレードリンパ種

ここでは 高分化型(小細胞性)リンパ腫 と 低分化型(大細胞性)リンパ腫 という表現で記載しています

*中分化型(中細胞性)を分類する場合もあるようです。
詳しくは後述しますが、リンパ種の分類はガン化したリンパ球の物理的な大きさによるものなのですが、分類上の大きさの規定がないので、2分類、もしくは3分類にされたりするようです。

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骨髄細胞が分化しリンパ芽球となり、胸腺や身体の各所の臓器でリンパ球へと成熟します。
リンパ腫の分類はこの成熟過程のどの段階のリンパ球のガン化によるものかによって分類されます。

リンパ芽球からリンパ球へ成熟していくにつれ、大きさがどんどん小さくなっていきます。

リンパ芽球の段階でガン化したものが、低分化型(大細胞性)リンパ腫と言われます。
リンパ芽球はいわばまだ子供のような状態ですので、この段階でガン化すると増殖のスピードも早いのです。
そのため低分化型(大細胞性)リンパ腫は早いスピードで進行します。

成熟しリンパ球となった状態でガン化したものが、高分化型(小細胞性)リンパ腫と言われます。
すでに大人に成熟した状態のリンパ球がガン化したものなので、増殖のスピードもゆるやかになります。
そのため高分化型(小細胞性)リンパ腫はゆっくりとしたスピードで進行します。

がん細胞は正常な細胞よりもはるかに早いスピードで増殖します(ガン細胞のクローンを作ります)。
主な抗がん剤は、異常に早いスピードで増殖する細胞を狙ってやっつけるという仕組みで作用します。
そのため、比較的増殖スピードがゆるやかな高分化型(小細胞性)リンパ腫は、抗がん剤の標的になりにくいため効きにくいとされています。

T細胞型、B細胞型 の違い

骨髄細胞から分化したリンパ芽球がどの場所で成熟したかによって、T細胞型、B細胞型 に分かれます(細かくは他にもあります)
主に胸腺で成熟したリンパ球がT細胞型、その他いろいろな臓器で成熟したリンパ球がB細胞型になります。

T細胞型リンパ球の仕事は主に抗原(異物)に対して直接攻撃を行ったり、B細胞型リンパ球の仕事を助ける働きをしているものです。

B細胞型リンパ球の仕事は主にB細胞自身が抗体になったり、自分と同じ抗体を作る働きをするものです。

 

消化管型リンパ腫まとめ

消化管粘膜にガン化したリンパ球が増殖浸潤し悪性腫瘍化したものを、消化管型リンパ腫という。

低分化型(大細胞性)リンパ腫 T細胞型
胸腺で成熟(成熟途中)したリンパ芽球がガン化 進行が早い 抗がん剤はB細胞型より効きにくい

低分化型(大細胞性)リンパ腫 B細胞型
胸腺以外の臓器で成熟(成熟途中)したリンパ芽球がガン化 進行が早い 抗がん剤は効きやすい

低分化型(大細胞性)リンパ腫は無治療の場合は発症から2~10週程度で、死に至ります。

 

高分化型(小細胞性)リンパ腫 T細胞型
胸腺で成熟したリンパ球がガン化 進行が遅い 抗がん剤は効きにくい

高分化型(小細胞性)リンパ腫 B細胞型
胸腺以外の臓器で成熟したリンパ球がガン化 進行が遅い 抗がん剤はT細胞型よりは効きやすい

高分化型(小細胞性)リンパ腫は無治療の場合は発症から1年程度で、死に至ります。

 

以上のような発生過程であるため、高分化型(小細胞性)リンパ腫から低分化型(大細胞性)リンパ腫へ、移行・変化するということは起こりません。しかし、高分化型(小細胞性)リンパ腫を発症後、低分化型(大細胞性)リンパ腫をまた別のガンとして発症・併発することはあり得ます

高分化型(小細胞性)リンパ腫は抗がん剤が効きにくいといっても、抗がん剤も様々な種類がありますし、他の薬と組み合わせ併用などをして治療を行います。

 

リンパ球形質細胞性腸炎(IBD)と高分化型(小細胞性)リンパ腫

リンパ球形質細胞性腸炎は消化管粘膜の炎症部分にリンパ球形質細胞が多数浸潤している状態です。

同じように高分化型(小細胞性)リンパ腫も消化管粘膜にガン化したリンパ球が多数浸潤し腫瘍化し炎症を起こす疾患のため、見た目だけでは(病理検査であっても)どちらの疾患なのかがわかりません。消化管で多数浸潤しているリンパ球がガン化したものなのかを調べるにはクロナリティ検査が必要です。これはリンパ球の遺伝子を調べて、正常な過程で生まれたリンパ球なのか、がん細胞によって作られたクローンなのかを調べる検査です。

このクロナリティ検査の精度はリンパ腫全体としては80%~90%と言われていますが、消化管型のリンパ腫のみに特定すると、精度は40%~60%と低くなります。そのため、クロナリティ検査でも判明できない可能性も残ります。そのためリンパ球形質細胞性腸炎と消化管型の高分化型リンパ腫の判別を難しくしています。

 

検査

クロナリティ検査を行うには消化管粘膜の採取が必要です。蛋白漏出性腸症の確定診断のための組織生検で行う病理検査とは別の検査が必要になります。
症状が重度である場合は獣医師が併せてクロナリティ検査に出す場合もありますし、病理検査機関から結果通知の際、クロナリティ検査を行った方がいいという提言をされる場合もあるようです。(この場合は、検査機関に提出されている検体を流用して検査してもらえるようです)
これから組織生検を行う予定の場合には、クロナリティ検査の件も獣医師に相談してみるとよいかもしれません。

 

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そもそもリンパ球形質細胞性腸炎との判別が難しいという点だけでもかなり心配ですし、すでに検査をしてしまっている場合や、検査後に発症したような場合はどう判断(診断)するのか・・・。
など、の疑問、不安を主治医に確認してみました。

Q.組織生検を行わない場合や、検査後に発症したような場合は、どういう点でIBDと切り分けするのか?
A.最初はIBDとして治療を開始するので、ステロイドや免疫抑制剤が効くか効かないかなど、経過をみての判断となる。IBDの治療に一切反応しない場合に高分化型(小細胞性)リンパ腫の可能性が出てくるので、抗がん剤をためして反応をみてみる。ただし、ステロイド治療は後々リンパ腫だった場合に抗がん剤の効きが悪くなるリスクがあるので、そのリスクを説明し了承してもらった上で行う。

Q.見落とされたリンパ腫だった場合に、PLEの食事とガン治療の食事はまったく正反対だが、進行を促進させてしまったりはしないのか?(ガンの食事は低タンパク高脂肪が基本・蛋白質はガン細胞の栄養になってしまう)
A.ガン進行を促進させる可能性は有る。だが、優先度の問題で、どちらの疾患であっても低アルブミン血症の改善が最優先となるので、高タンパク食になるのは仕方ない。進行は遅いガンなので、ガン進行のリスクよりも低アルブミン血症のリスクを重視する。

Q.見落とされたリンパ腫だった場合に、PLEの治療のため免疫抑制剤を使用している場合、ガンでは免疫抑制は逆効果ではないのか。
A.確かに免疫抑制は逆効果ではあるけれど、これも優先度の問題で、低アルブミン血症の改善が最優先となるので、免疫抑制を行うことで低アルブミン血症が改善されるのであれば、こちらが優先される。

 

ここからは個人的質問・・・

Q.るいの今後ですが、再発ではなく高分化型(小細胞性)リンパ腫を発症したのかも?!というのはどういう点で診断していくのでしょう?
A.低ALB(1の台が続くなど)が進んだら、リンパ腫の懸念がでます。その時点で、ステロイドを使ってみるか、再検査をして確定診断を行うのかの相談になります。

とのことでした。

すでに検査をしてしまっていたり、他の病気で検査をすることが出来ない場合の判断材料は、やはりステロイドが効くかどうかというのが大きな目安になるのかなと思います。
「IBDだと思っていたけれど、結局リンパ種だった・・・」という事例をいくつか耳にしましたが、やはり「ステロイドが効かない」という共通点があるようです。

また、恐いな・・・と思ったは、ステロイドを使っていると、抗がん剤の効きが確実に悪くなるということです。
検査をせず、ステロイド治療を始める場合は、リンパ腫だった場合のステロイド投薬のリスクをきちんと説明してもらう必要があります。。。
1ヶ月もステロイドを使用すれば、その後の抗がん剤治療の予後は確実に違ってくるとのことですから(もちろん悪い方にです)・・・。

 

それから、リンパ腫診断の際に役立つと思われる検査に「蛋白分画」というものがあります。
これは血中のグロブリン各種とアルブミンの構成比を正常値と比較することで、病気の可能性を見るものです。
グロブリン・アルブミンの構成比は病態によって特有の変異があるので、この検査によってどの病気なのかある程度の判定ができるようです。
あくまで、可能性を診断するもので確定ではないものです。参考にできる、判断材料のひとつという感じですが・・・。